新規オープン店舗としての可能性

2024年4月にオープンした〼（HITOMASU）は、すすきのエリアにおける海鮮しゃぶしゃぶ専門店という明確なコンセプトで差別化を図っている。開店から半年という短期間ながら、既に独自の存在感を放ち始めており、特に「一人海鮮しゃぶしゃぶ」という新しい食事スタイルの提案は、現代の個食ニーズに見事にマッチしている。

立地戦略の巧みさ

ジャパンランドビル4階という一見すると不利に思える立地も、実は戦略的な選択だったと推察できる。外看板がないという点は認知度向上の課題となる一方で、「知る人ぞ知る隠れ家」というブランディングに成功。Instagram DMでの予約受付という現代的なアプローチも、若年層を中心としたターゲット層に的確にリーチしており、口コミマーケティングの観点から見ても効果的だ。

メニュー構成の独自性

通常の居酒屋では見られない海鮮と肉類の両方でしゃぶしゃぶを楽しめる点は大きな強み。特に洞爺湖和牛、ハーブ豚、仔牛タンといった北海道産の高級食材を使用している点は、観光客にとっても魅力的な要素となっている。厚岸産の生牡蠣をしゃぶしゃぶで提供するという贅沢な試みも、他店との差別化に成功している例と言えよう。

価格設定の妥当性

ディナー平均予算4,000円〜4,999円という価格帯は、すすきのエリアの海鮮専門店としては標準的な設定。しかし10食限定ランチ2,000円という戦略的な価格設定は、新規顧客獲得の入口として機能しており、ランチで店舗の雰囲気や料理のクオリティを体験した顧客が、ディナータイムのリピーターになるという好循環を生み出している可能性が高い。

日本酒セレクションの秀逸さ

日本酒のラインナップは特筆すべき点の一つ。「山法師 純米 爆雷辛口+28」という日本一辛い日本酒から、季節限定の夏酒まで幅広く取り揃えており、枡での提供という演出も含めて、日本酒好きの心を掴む工夫が随所に見られる。海鮮しゃぶしゃぶとの相性を考慮したセレクションは、料理と酒のマリアージュを重視する食通にも評価されるだろう。

運営ノウハウの活用

は〆の2号店としての運営は大きなアドバンテージ。既存店のノウハウを活かしながら、海鮮しゃぶしゃぶという新しいコンセプトに挑戦する姿勢は評価に値する。昼12時から深夜まで営業という長時間営業も、様々な時間帯の需要を取り込む戦略として機能しており、特にすすきのという夜の街の特性を活かした営業形態と言える。

改善の余地と今後の展望

新規オープン店舗ゆえの課題も存在する。電話番号の非公開、詳細な営業時間の不明確さ、メニュー価格の多くが「要問合せ」となっている点は、潜在顧客にとって不安要素となりかねない。しかしこれらは時間とともに改善されるであろう初期段階の課題であり、Instagram世代をメインターゲットとした戦略の中では、むしろ「詳細はDMで」という導線が機能している可能性もある。

季節感の演出

夏はみかん鯛やソイといった北海道の旬魚を提供するなど、季節ごとの食材変更は料理の鮮度感を演出する重要な要素。夏季限定の日本酒ラインナップも含め、四季を通じて異なる楽しみを提供する姿勢は、リピーター獲得の重要な戦略となっている。

総括

〼（HITOMASU）は、開業から半年という短期間ながら、海鮮しゃぶしゃぶ専門店という明確なポジショニング、Instagram世代に向けた現代的なアプローチ、は〆グループの運営ノウハウという3つの強みを武器に、すすきのエリアにおいて独自の存在感を確立しつつある。情報公開の透明性向上や認知度向上といった課題はあるものの、それらは成長過程における一時的なものと捉えることができ、今後の発展が大いに期待できる店舗と言えるだろう。