はじめに

2024年1月にJR余市駅前にオープンした「FARM TO PEEL（ファームトゥピール）」は、カナダ・オタワ出身のピーター・シンプソンさん（39歳）と仁木町出身の妻・美澄さん（37歳）が営む本格的なテイクアウトピザ専門店である。店名「Farm to Peel（農場から食卓へ）」に込められた「取れたて野菜を食卓へ届けたい」という思いの通り、余市町内でピザの持ち帰り専門店としては初となる本店は、地産地消と本格的な製法を融合させた独自のポジションを確立しつつある。本稿では、実際の顧客レビューと取材情報を基に、同店の強みと課題を多角的に分析する。

料理の品質と味わいの評価

FARM TO PEELの最大の強みは、圧倒的な料理品質の高さにある。ピーター・シンプソンさんはカナダの首都オタワでホテルレストランやイタリアンレストランの料理長を務めた経験を持ち、その本格的な技術が余市の地で花開いている。特筆すべきは3日間じっくり寝かせた生地を使用する製法で、この熟成によって生み出される「外はカリカリ、中はモチモチ」という食感は、多くのレビューで絶賛されている。

メニューは定番の「マルゲリータ」（ホール1,200円）から、4種類のチーズを使った「クアトロフォルマッジ」（同2,250円）まで約15種類を展開。顧客からは「シンプルなマルゲリータだからこそ素材の良さが際立つ」「クアトロフォルマッジは濃厚でチーズ好きにはたまらない」「ホワイトフォンギはきのこの旨味が凝縮されて絶品」といった高評価が寄せられている。注文を受けてから焼き上げる完全オーダー制により、常に出来立ての最高の状態で提供される点も、顧客満足度向上に大きく貢献している要因の一つと言えよう。

地産地消へのこだわりと食材品質

同店のもう一つの大きな特徴は、徹底した地産地消へのこだわりである。仁木町出身の美澄さんの実家はトマトなどを栽培する農家で、その新鮮な野菜を中心に余市・仁木で採れる旬の農産物をふんだんに使用。道産小麦をブレンドした特製生地も、北海道の恵みを最大限に活かす姿勢の表れだ。この地産地消の取り組みは、単なる経営戦略ではなく「余市、仁木でとれる農産物の魅力をピザを通して伝えたい」という夫妻の真摯な想いから生まれたものである。

顧客レビューでも「地元の野菜を使っているのがポイント高い」「新鮮な食材の美味しさが伝わってくる」といった声が多く、地域に根ざした食材調達が高く評価されている。特にきのこ類を使用した「ホワイトフォンギ」は、地元産きのこの香りと旨味を存分に楽しめる人気メニューとして確立されつつある。

立地とアクセスの優位性

JR余市駅のすぐ目の前という抜群の立地も、同店の大きな強みである。徒歩わずか10秒という近さは、地元客はもちろん、余市観光で訪れる旅行者にとっても極めて便利。「余市駅前通りにあるピザ専門店」として認知度も高まりつつある。

駐車場については専用スペースはないものの、余市駅前の無料駐車場が利用可能で、店舗前への短時間の駐車も許可されているため、車での来店も比較的スムーズだ。公共交通機関でのアクセスの良さと、車でも訪れやすい環境を両立している点は、幅広い客層を取り込む上で有利に働いている。

営業形態とサービスの特徴

FARM TO PEELは基本的にテイクアウト専門店として営業しており、店内にはイートインスペースはほとんどない。当初は土日のみの営業だったが、現在は木・金・土・日・祝日の11:00〜18:00（生地が売り切れ次第終了）に拡大。営業日には電話予約（090-2815-3851）が可能で、定休日でもLINE公式アカウント（ID: @846ttkos）から予約を受け付けている。

特筆すべきは4分の1カットでの販売にも対応している点だ。これにより「複数の味を楽しみたい」という顧客ニーズに応えており、「色々な味が試せて嬉しい」という声が多数寄せられている。ホールピザ1枚では多いと感じる単身客や、バラエティを求める家族連れにとって、この柔軟な販売形態は大きな魅力となっている。

価格設定とコストパフォーマンス

価格帯は1,200円〜2,250円（ホール）と、本格的な手作りピザとしては妥当な設定。使用する食材の品質、3日間の生地熟成、注文後の焼き上げといった手間を考慮すれば、むしろコストパフォーマンスは良好と言える。レビューでも「この品質でこの価格なら納得」「地元の新鮮な野菜を使っていることを考えれば適正価格」といった評価が目立つ。

4分の1カットでの購入が可能なため、初めての客でも気軽に試しやすく、「まずは1/4で試してみて、気に入ったらホールで買う」という段階的な購買行動を促している点も、価格面での心理的ハードルを下げる工夫として機能している。

接客とホスピタリティ

ピーター・シンプソンさんと美澄さん夫妻の温かい人柄も、高評価の一因となっている。「ご主人と奥様の人柄も素晴らしく、安心して購入できる」「お人柄も安心できますよ」といったレビューが複数見られ、商品の質だけでなく、店主との交流自体が来店の価値を高めている様子がうかがえる。

カナダ人シェフと日本人の妻という国際色豊かな組み合わせは、店舗に独特の雰囲気をもたらしており、「カナダと日本の良いところが融合した店」という印象を顧客に与えている。言語面でも、英語と日本語の両方で対応可能な点は、外国人観光客にとっても利用しやすい環境となっている。

課題と改善の余地

一方で、いくつかの課題も指摘されている。最も多いのは営業日の限定性だ。木・金・土・日・祝日のみの営業のため、「平日しか休みがない人は行きづらい」という声がある。また、生地が売り切れ次第終了となるため、遅い時間に訪れると既に閉店している可能性もある。

イートインスペースがほぼないことも、一部の客にとっては不満要素となっている。「イートインしたいなぁと思いながら店内に入ってみると、やっぱりテイクアウト店の広さしかない」というレビューもあり、将来的にイートインスペースの拡充が実現すれば、さらなる顧客満足度の向上が期待できるだろう。実際、夫妻も「将来はイートインスペースなども設ける予定」と語っており、中長期的な事業展開の可能性が示唆されている。

観光資源としての可能性

余市町は、ニッカウヰスキー余市蒸溜所や余市ワイナリーなど、観光資源に恵まれた地域である。FARM TO PEELは、これらの観光スポットを訪れる旅行者にとって、「余市でしか味わえない本格ピザ」という新たな魅力を提供している。

「余市観光の際に立ち寄りました」というレビューも見られ、観光客の回遊性向上にも貢献。駅前という立地を活かし、余市蒸溜所見学後のランチや、ワイナリー訪問前の軽食として利用されるケースも増えている。地産地消を掲げる同店は、余市の農産物の魅力を発信する役割も担っており、地域の食文化を体験できる場として観光振興への貢献も期待される。

SNSとデジタルマーケティング

Instagram（@farm_to_peel）では約1,586人のフォロワーを獲得し、44件の投稿で店舗の日常や新メニュー情報を発信。視覚的な訴求力が高いピザという商品特性を活かし、美しい料理写真を通じて認知度向上に努めている。LINE公式アカウントでの予約システムも整備されており、デジタルチャネルを活用した顧客接点の拡大にも注力している様子がうかがえる。

総合評価と今後の展望

総合的に見ると、FARM TO PEELは本格的な技術力、徹底した地産地消、抜群の立地、温かいホスピタリティという4つの強みを活かし、余市町において独自のポジションを確立している。開業から1年余りという短期間で、地元客のみならず観光客からも高い支持を獲得しており、「余市に来たら絶対また買いたい」というリピーター育成にも成功している。

今後、営業日の拡大やイートインスペースの整備といった課題に取り組むことで、さらなる成長が期待される。カナダと日本、都会と地方、伝統と革新が交差する場所として、FARM TO PEELは余市の新たな食文化の担い手となりつつある。「地元はもちろん観光客にも愛される店を目指したい」という夫妻の夢は、着実に実現へと向かっていると言えるだろう。