半世紀の歴史が紡ぐ町中華の真髄

中国料理 皇林は、1979年開業という長い歴史を持つ函館の老舗町中華である。店主の花岡幸治さんは東京の大学在学中にアルバイトで中華料理店に勤めたことをきっかけに料理人の道へ進み、四川料理と北京料理を中国人シェフの下で徹底的に学んだ本格派。当初は函館市日吉町で「幸園」として独立開業し、1989年に現在の花園町へ移転した際、麺類中心だったメニューに本格中華の一品料理を大幅に増やし「皇林」と店名を改めた経緯がある。この改名は単なる名称変更ではなく、より本格的な中華料理店への進化を象徴する転機だったといえよう。

圧倒的コストパフォーマンスを実現するランチメニュー

皇林最大の魅力は驚異的なコストパフォーマンスにある。特にランチタイムの「選べる二品セット」は麺類6種類とご飯もの6種類から各1品を自由に組み合わせられ、さらにシューマイと杏仁豆腐が付いて¥900〜¥1,100という価格設定だ。例えば醤油ラーメンと中華飯の組み合わせ（¥1,100）では、フルサイズのラーメンと中華飯のハーフサイズが提供されるが、実際にはハーフサイズでも十分な量があり、食べ応えは抜群。あんかけ焼きそばハーフとエビ唐丼ハーフの組み合わせも人気で、あんかけ焼きそばの絶品ぶりと、タレが抜群に美味しいエビ唐丼の両方を楽しめる贅沢さが支持を集めている。

20年以上愛される名物「やきそばセット」の魅力

店の看板メニューである「やきそばセット」（¥1,200）は、20年以上にわたり地元民から愛され続けている定番中の定番。このセットの内容は、焼きそばまたは五目あんかけラーメンをメインに、シューマイ、モチモチ皮のエビギョーザ、唐揚げ、そして杏仁豆腐という、まさにコース料理を定食仕立てにしたような豪華な構成だ。ランチタイム（14時まで）とディナータイム（17時から）で提供時間が分かれているが、この価格でこれだけの品数と品質を提供できるのは、長年の経験と仕入れルートの確立があってこそ。焼きそばと五目あんかけラーメンは、どちらも鶏ガラと丸骨を半日以上じっくり煮込んだスープをベースにしており、具材の旨みを丁寧に溶け込ませたしょう油あんが味の決め手となっている。

函館では希少な「醤爆飯」という宝物

醤爆飯（鶏味噌）は函館市内では非常に珍しいメニューで、皇林を訪れる常連客の多くがこれを目当てに通っているといっても過言ではない。鶏肉と甘い味噌が絶妙にマッチした味わいは、一度食べたら忘れられない美味しさ。特筆すべきは素揚げされたナスのトロトロ食感と、甘味噌との相性の良さだ。ナスは素揚げすることで甘みと旨みが凝縮され、それに甘辛い鶏味噌が絡むことで、ご飯が無限に進む魔法のような料理に仕上がっている。この醤爆飯が選べる二品セットのご飯もの枠で選択できるのも嬉しいポイントで、「鶏味噌飯」として注文すれば、ランチセットとしてリーズナブルに楽しめる。

多彩な麺メニューと個性的なラインナップ

麺類のバリエーションも豊富で、定番の醤油ラーメンから、パーコー麺（¥850）、五目あんかけラーメン、さらにはサムジャンラーメンという珍しいメニューまで揃っている。パーコー麺は揚げたてサクサクの骨付き豚肉が豪快にのった一杯で、¥850という価格からは想像できないボリュームと満足感が得られる。サムジャンラーメンは韓国の味噌「サムジャン」を使用した個性的なラーメンで、他店ではまず見かけない独創的なメニューだ。激辛タンタンパーコー麺は辛さとコクが絶妙なバランスで、辛いもの好きにはたまらない一品。トリソバ（塩）は透き通った塩味のスープが優しい味わいで、あっさり系が好みの人におすすめ。エビ唐そば（醤油）、じゃーじゃー麺など、選択肢の多さも皇林の大きな魅力となっている。

丁寧な仕事が光る点心と一品料理

皇林の点心は注文後に蒸すという丁寧な仕事ぶりで知られている。蒸したてのシューマイは肉汁たっぷりでアツアツ、モチモチ皮のエビギョーザはプリプリのエビが存分に楽しめる。ユーリンチー（油淋鶏）はネギダレが香る本格中華の定番で、カリッと揚がった鶏肉にタレが絶妙に絡む。エビ唐揚げ丼はタレが抜群に美味しく、ボリューム満点で若者にも人気が高い。豚肉四川炒め定食は本格四川料理の味わいを手軽に楽しめる一品で、ランチセットとして提供される際はライス、スープ、漬物が付く充実の内容だ。

店の雰囲気とアクセスの良さ

店舗は建物の2階にあり、1階に駐車場を完備している点が車での来店に便利。有斗高校のすぐ近くという立地は地元の人々には馴染み深く、「産業道路からアリーナ方面に少し下がった通り」という表現でピンとくる函館市民は多い。最寄り駅は函館アリーナ前駅で、市電を利用する場合もアクセスしやすい立地だ。店内はカウンター3席、4人掛けテーブル×3、そして7〜8人が座れる小上がり席という構成で、一人客から家族連れ、小グループまで幅広く対応可能。町中華らしいアットホームな雰囲気が漂い、地元の常連客で賑わう光景はまさに愛される街の食堂そのものだ。

提供時間と待つ価値のある理由

注文してから料理が出てくるまで少し時間がかかるという口コミは複数見られるが、これは決してマイナスポイントではない。むしろ、注文後に丁寧に調理している証拠であり、出来立ての美味しさを提供するためのこだわりの表れだ。店主が一人で調理を担当しているため、混雑時は特に時間がかかることがあるが、その分、一品一品に手間をかけた本格的な味わいが楽しめる。時間に余裕を持って訪問し、ゆっくりと待つ時間も含めて楽しむのが皇林の正しい味わい方といえるだろう。

定休日と営業時間の確認を忘れずに

定休日は木曜日と第2・4水曜日という変則的なパターンなので、訪問前には必ず確認が必要だ。営業時間は11:00〜21:00（L.O. 20:00）で、ランチとディナーの間の休憩時間なく通し営業しているのは利用者にとって嬉しいポイント。やきそばセットがランチタイム（14時まで）とディナータイム（17時から）で提供時間が分かれている点には注意が必要で、14時〜17時の間は選べる二品セットなど他のメニューは注文可能だが、やきそばセットは提供されない。また、季節や店の都合により臨時休業することもあるため、遠方から訪れる場合は事前に電話確認することを強く推奨する。

価格設定の妙と地元密着型ビジネスモデル

全体的な価格帯は¥800〜¥1,500という非常にリーズナブルな設定で、学生から社会人、高齢者まで幅広い層が気軽に利用できる。これは地元密着型の町中華として、「毎日でも通える店」を目指した結果だろう。高級店のような華やかさはないが、その分、日常使いできる親しみやすさと、確かな技術に裏打ちされた本格的な味わいを両立している。函館新聞の取材記事では店主が「こだわった味をおいしいと言われると嬉しい。料理を作るのが好きなのが長く続けられた秘訣かな」と語っており、料理への純粋な情熱が長年の営業を支えてきたことが窺える。

リピーターを生む「また来たくなる」魔法

口コミを分析すると、リピート率の高さが顕著だ。「久しぶりの訪問」「3年ぶり3度目の登板」「お久しぶりに行ってみた」といった表現が多く見られることから、一度訪れた客が必ずまた戻ってくる魅力がこの店にはある。それは単純に安いからではなく、「この味をまた食べたい」と思わせる力があるからだ。特に醤爆飯や選べる二品セットといった他店では味わえない独自性の高いメニューが、リピーターを惹きつける強力な磁石となっている。また、店主の人柄や店の雰囲気が「ただいま」と言いたくなる居心地の良さを生み出しており、これが長年愛される理由の核心部分だろう。

改善点と今後への期待

批判的な意見としては「タバコの臭いがきついイメージ」という過去の口コミが存在するが、函館新聞の記事では「禁煙」と明記されており、近年対策が取られた可能性が高い。ただし、食べログでは「喫煙可」との記載もあるため、この点は訪問前に確認が必要かもしれない。また、一人で調理しているため提供時間がかかる点は、混雑時にはやや不便さを感じる客もいるだろう。しかし、これらの小さな不便さを補って余りある味とコストパフォーマンスがあることは、多くの口コミが証明している。

総合評価：函館が誇る本格町中華の到達点

中国料理 皇林は、半世紀近い歴史、本格的な技術、驚異的なコストパフォーマンス、地元密着の姿勢という4つの柱によって支えられた、函館を代表する町中華の名店だ。料理人一筋50年以上の店主が作り出す料理は、本格中華の技法を基礎としながらも、日本人の味覚に寄り添った優しい味わいに仕上がっており、幅広い世代から支持を集めている。特に醤爆飯という函館では希少なメニューの存在、選べる二品セットという自由度の高いシステム、20年以上愛されるやきそばセットという三本柱が、この店を唯一無二の存在にしている。アットホームな雰囲気、リーズナブルな価格設定、そして何より「また食べたい」と思わせる味の力が、この店を函館のソウルフードとして確固たる地位に押し上げているのである。