店舗の歴史と立地の優位性

櫻井家 本店は、函館市の西部地区・十字街に位置する老舗ラーメン店として、地元民から観光客まで幅広い支持を集めている。十字街は、函館でも特に歴史のある地域であり、路面が十字に分かれていることからこの名が付けられた。市電の十字街電停から徒歩わずか1分という抜群のアクセスの良さは、本店最大の強みの一つ。観光スポットが集まる西部地区の中心という立地条件により、サラリーマンや近隣住民はもちろん、多くの観光客が訪れる結果となっている。

札幌ラーメン界との深い繋がり

櫻井家の影響力は函館に留まらず、札幌ラーメン界にまで及んでいることは特筆に値する。札幌すすきのにある人気ラーメン店「いそのかづお」の店主は櫻井家の出身であり、深夜に行列ができることで知られる同店は札幌ブラックというラーメンで人気を博している。この事実は、櫻井家が単なる地方のラーメン店に留まらず、北海道ラーメン界全体に影響を与える存在であることを示している。実際、櫻井家のメニューにも「秘伝黒醤油ラーメン」が存在し、この札幌ブラックの流れを汲む一杯は多くの客から支持を受けているのだ。

看板メニュー「函館塩ラーメン」の完成度

店の看板メニューである函館塩ラーメンは、価格680円〜780円という手頃な設定でありながら、その品質の高さで多くのリピーターを獲得。麺は特注の中太麺を使用し、もちもちとした食感と喉越しの良さを両立させている点が高く評価されている。スープは清湯スープで、鶏がら、豚骨、昆布、しいたけ、キャベツ、玉ねぎなどを丁寧にブレンドして作られており、比較的あっさりとしているのに深い味わいがあるという絶妙なバランスを実現。甘みがありつつも塩味がやや強めという味付けは、函館塩ラーメンの伝統を踏襲しながらも、独自の個性を打ち出すことに成功している。

多様なラーメンラインナップの魅力

塩ラーメンのみならず、醤油ラーメン（730円）、味噌ラーメン（770円）、そして前述の秘伝黒醤油ラーメンと、多様な選択肢を提供している点も櫻井家の強みだ。特に黒醤油ラーメンは「函館といえば塩ラーメン」という固定観念を覆す一杯として、函館滞在が長くなり塩ラーメンに飽きた観光客からも好評を博している。濃厚な味付けながらあっさりしていて食べやすいというバランスの良さが、幅広い客層に受け入れられる理由となっている。また、アサリ塩ラーメンは当店人気No.1メニューとして君臨し、噴火湾で採れた新鮮な稚貝ホタテをトッピングした特別版は函館バル街の限定メニューとしても提供されており、地元食材の活用という点でも評価が高い。

新メニューへの挑戦と革新性

伝統を守りながらも革新を恐れない姿勢は、新メニューの開発にも表れている。辛みそカリーラーメン、ブラックカリーラーメン（各900円）、激辛ラーメン（930円）といった挑戦的なメニューは、若い世代や変化を求める客層のニーズに応えるものだ。カレーラーメンは特に独特で、食べ進めるうちにスープをご飯にかけておじやのようにして楽しむこともできるという多様な食べ方の提案も面白い。日替わりランチのカレーラーメン提供日には、この楽しみ方を実践する常連客の姿も見られるという。

圧倒的なコストパフォーマンス

櫻井家の最大の魅力の一つは、その圧倒的なコストパフォーマンスにある。ランチタイムのセットメニューは、ラーメンとチャーシューごはんで680円〜770円、ラーメン、チャーシューごはん、餃子2個がセットになったスペシャルランチは830円〜880円という驚異的な価格設定。さらに、火曜日から土曜日のランチには、曜日によって内容が変わるワンコインメニュー（550円）も提供されており、この日替わりランチは地元客から絶大な支持を受けている。特に火曜日、木曜日、金曜日は餃子2個が付くため、価格だけ見れば最もお得な設定となっている。

金曜日の特別な価値

金曜日は櫻井家にとって特別な曜日だ。日替わりランチでは醤油ラーメン、餃子2個、ライスのセットが750円で提供され、しかもこの日はポイントカード2倍デーとなっている。常連客の間では「金曜日の日替わりランチが狙い目」という認識が共有されており、醤油ラーメンを味わいたい客にとっては最高の組み合わせとなる。醤油ラーメンは、スープの色は秘伝黒醤油ラーメンに比べるとやや薄めながら、キリっとした醤油の風味と、甘さすら感じる独特のバランスが魅力。この醤油スープに合わせた麺は、スープの味をしっかりとまとい、一口また一口と食べ進めてしまう中毒性がある。

サイドメニューの充実度

櫻井家のサイドメニューの充実度も見逃せない。特にたまごかけごはん（300円）は驚異的なコストパフォーマンスを誇る一品だ。卵と一緒に、長ネギとチャーシューがご飯の上にたっぷりとのって、この内容で本当に300円でいいのかと疑問に思うほどのボリューム。しっかりと食事をしたい時には、函館塩ラーメンと組み合わせるとちょうどいい満足感が得られる。餃子は、にんにくが効いていて美味しく、「もっと食べたい」と思わせる中毒性がある。チャーシューごはんやチャーマヨ丼も用意されており、ラーメンだけでは物足りない客のニーズに応えている。

具材のクオリティと細部へのこだわり

具材の品質にも定評がある。チャーシューは臭みもなく下味がしっかりと付いており、とても柔らかく口の中でとろけていく感触は多くの客を魅了している。卵は舌触りも良く中まで温かく、ネギは食感が残っていて良いアクセントとなっている。特筆すべきは、醤油ラーメンに入っているきくらげの存在だ。麩よりもデカいきくらげが2つも入っており、醤油ラーメンにきくらげという組み合わせは珍しく、食感と風味の両面で良いアクセントとなっている。このような細部へのこだわりが、櫻井家のラーメンの完成度を高めている。

店内の雰囲気と接客スタイル

店内はアイランドカウンターテーブルを配し、仕切り板が設置されている。コロナ禍を経て、この仕切り板の存在は衛生面での安心感を提供している。平日の昼どきは、隣にある「そば処 かねき」と同様に混雑することが多く、特に外国人観光客の姿が目立つ。店員の接客スタイルは、コロナ前と変わらず日本語で押し切るというもので、これもまた櫻井家らしさの一つとなっている。観光客にとっては、この「ローカル感」が逆に魅力となり、本物の函館ラーメン店の雰囲気を味わえる体験として好意的に受け止められているようだ。

顧客ロイヤリティプログラムの活用

ポイントカード制度の導入は、リピーター獲得に大きく貢献している。特に金曜日のポイント2倍デーは、常連客の来店を促進する効果的な施策となっている。「貯めてみるか」と思わせる絶妙な特典設定は、単なる一見客を常連客へと変化させる仕組みとして機能しており、地元密着型ビジネスモデルの成功例と言えよう。

函館バル街への積極参加

櫻井家は函館西部地区で定期的に開催される「バル街」イベントに積極的に参加している。過去には不参加の回もあったが、基本的には参加店舗として名を連ね、限定メニューを提供している。噴火湾で採れた稚貝ホタテをトッピングしたバル街限定の函館塩ラーメンなど、イベントならではの特別メニューは好評を博している。バル街営業時間は12時から21時または22時と通常営業より長めに設定されており、地域イベントへの貢献度の高さが窺える。

観光客と地元民の共存

櫻井家の特徴的な点は、観光客と地元民が自然に共存している店内の雰囲気だ。観光スポットが集まる西部地区にありながら、価格設定とメニュー構成は地元民のニーズもしっかりと捉えており、「観光地価格」になっていない点が評価されている。日替わりランチのワンコインメニューや、ポイントカード制度は明らかに地元民をターゲットとしたものであり、一方で函館塩ラーメンや黒醤油ラーメンといった看板メニューは観光客の期待にも十分応えるものとなっている。この二つの客層を同時に満足させる経営戦略は、持続可能なビジネスモデルとして注目に値する。

価格変動と値上げへの対応

近年の物価上昇により、日替わりランチがかつての500円から550円へと値上げされたことは、一部の常連客から惜しまれている。しかし、それでもなお「ワンコイン＋50円」という価格設定は、現在の経済環境を考慮すれば十分に良心的であり、品質を維持しながらの価格改定として受け入れられている。函館塩ラーメンも価格に幅があり（680円〜780円）、時期や提供方法によって若干の変動があるようだが、これも原材料費の変動への柔軟な対応と解釈できよう。

営業時間の特徴と利便性

営業時間は11:00〜14:30のランチタイムと、17:30〜20:00のディナータイムに分かれており、定休日は月曜日と第1・3日曜日となっている。ディナータイムの終了が20:00と比較的早めであることは、夜遅くまで営業するラーメン店が多い中では特徴的だ。これは、観光地という立地特性と、スタッフの労働環境への配慮のバランスを取った結果と考えられる。十字街エリアの散策を終えた観光客が、ホテルに戻る前に立ち寄るには十分な時間設定であり、地元民にとっても平日の仕事帰りに立ち寄りやすい時間帯となっている。

競合店との差別化要因

函館には数多くのラーメン店が存在するが、櫻井家の差別化要因は明確だ。第一に、立地の良さ。十字街電停から徒歩1分という利便性は、観光客にとって大きな魅力となっている。第二に、価格戦略。ワンコインランチや充実したセットメニューは、コスパ重視の客層を確実に捉えている。第三に、メニューの多様性。塩・醤油・味噌の基本トリオに加え、黒醤油、カレー系、激辛系と幅広い選択肢を提供している。第四に、地元密着とブランド力の両立。ポイントカード制度や日替わりランチで地元客を大切にしながら、札幌ブラックとの繋がりという「物語」で観光客にもアピールしている。

改善の余地と今後の展望

一方で、改善の余地も存在する。ランチタイムのライスの量が「少なめながら、追い飯くらいの量だった数年前より良い」という表現からは、過去には量に対する不満があったことが窺える。現在は改善されているようだが、若い男性客や大食漢の客にとっては、まだ物足りなさを感じる可能性がある。また、一部のレビューでは「ちょっとお腹を満たすには物足りなかった」という指摘もあり、ボリューム面での更なる改善は検討の余地があるかもしれない。駐車場がないことも、車で訪れる客にとってはマイナス要因となっているが、これは立地上やむを得ない面もある。

総合評価と今後の期待

総合的に見て、櫻井家 本店は伝統と革新のバランス、地元密着と観光客対応の両立、圧倒的なコストパフォーマンスという三つの強みを活かし、函館ラーメン界において独自のポジションを確立している。食べログ評価3.07という数字は決して高くはないが、これは逆に「隠れた名店」としての魅力を保持していることを意味するとも解釈できよう。札幌ブラックという北海道ラーメン文化への影響力、函館バル街への積極参加による地域貢献、そして何よりも「また来たい」と思わせる誠実な味作りとサービス提供により、今後も多くの客に愛され続けることは間違いない。函館を訪れた際には、十字街の路面電車を降りてすぐの場所にある、この温かみのあるラーメン店をぜひ訪れてほしい。